今から10年前の話です。
四国にある建設会社の社長から一本のご相談をいただきました。
「将来、設計部門を任せられる建築士を探してほしい。」
簡単な依頼ではありませんでした。
経験だけではなく、人柄や将来性まで見極めなければならないポジションです。
私はすぐに四国へ向かいました。
レンタカーを借り、愛媛県、香川県と各地を回り、数名の候補者とお会いしました。
その中でも、一人の建築士の方が強く印象に残りました。
誠実で仕事にも真面目。
この人なら、将来きっと会社の中心人物になれる。
そう感じたのです。
その後、愛媛県内で何度か食事をご一緒しました。
仕事のこと、将来のこと、家族のこと…。
いろいろな話をしましたが、彼はなかなか転職に前向きにはなりませんでした。
無理もありません。
転職は人生を左右する大きな決断です。
だから私は、急かすことはしませんでした。
そんな状況をクライアント企業の社長へお伝えすると、
「一度、私も一緒に食事をしませんか。」
というお話になりました。
後日、三人で食事をすることになりました。
食事を終えたあと、社長が一軒のお店へ案内してくれました。
そこは、ジャズが静かに流れる落ち着いた雰囲気のお店でした。
三人でゆっくり音楽を聴きながら、仕事の話だけではなく、人生の話や趣味の話をしました。
私はその時間の中で、一つの変化を感じていました。
候補者の方と社長との距離が、少しずつ縮まっていく。
言葉では表せない「信頼」が生まれていく瞬間でした。
私は、その空気を今でも鮮明に覚えています。
ヘッドハンターの仕事は、求人票を渡すことではありません。
人と人との相性を見極め、ご縁をつなぐ仕事なのだと、改めて感じた夜でした。
そして、彼はその会社への入社を決意しました。
あれから10年。
先日、その方と久しぶりに連絡を取りました。
「入社後に結婚し、子どもも生まれました。」
そんな近況を聞くことができました。
そして、さらにうれしかったのは、
今では設計部門の役員として活躍されています。
あの時、ジャズを聴きながら過ごした数時間が、人生を変えるきっかけの一つになったのかもしれません。
もちろん、それは私の力ではありません。
候補者の努力。
社長の人柄。
会社の環境。
すべてが重なった結果です。
私は、そのご縁をつなぐお手伝いをしただけです。
20年以上ヘッドハンターという仕事を続けていますが、このような報告をいただける瞬間が、一番うれしい時間です。
年収が上がることも大切です。
キャリアアップも大切です。
でも、それ以上に、
「この会社に入って良かった。」
そう思っていただける転職を、一つでも多く実現したい。
それが、私が20年以上この仕事を続けている理由です。
