私は彼と初めて会いました。
場所は、四国のとあるファミリーレストラン。
初対面にもかかわらず、気が付けば2時間近く話し込んでいました。
最初は仕事のこと。
家族のこと。
趣味のこと。
そして、将来のこと。
話を聞いているうちに、私は一つの違和感を覚えました。
「この人は、本気で転職したいわけではない。」
そこで私は率直に聞いてみました。
「実は、まだ転職する気はないんじゃないですか?」
すると彼は少し笑いながら答えました。
「はい、実はそうなんです。」
「今の会社に大きな不満はありません。」
「社長にも本当にお世話になっていますし、一緒に働く人たちも好きなんです。」
やはり、私の感じた通りでした。
では、なぜ私に会いに来たのか。
彼は少し考え、ゆっくりと本音を話し始めました。
「実は今の会社は、大工をしている父の紹介で入社した工務店なんです。」
その言葉を聞いて、私はすぐにこの転職相談の難しさを理解しました。
しかも、お父さんはその工務店の下請けとして仕事を請け負っていました。
もし彼が退職すれば、お父さんと会社との関係にも影響が出るかもしれない。
仕事にも迷惑をかけてしまうかもしれない。
だから彼は、簡単に「辞めたい」と言える立場ではありませんでした。
仕事そのものに不満があるわけでもありません。
社長への恩義もある。
お父さんへの感謝もある。
それでも、彼には一つだけ将来への不安がありました。
彼は施工管理技士の資格を持つ現場監督でした。
しかし、今の会社で経験できるのは民間の戸建て住宅が中心。
公共工事や大型建築物など、より幅広い施工管理を経験する機会はほとんどありませんでした。
彼は静かにこう言いました。
「このまま10年、20年と働いた時、自分はどんな施工管理になっているんだろう、と考えることがあるんです。」
「もっと大きな建物にも携わってみたい。」
「もっと施工管理として成長したい。」
その言葉を聞いた時、私は確信しました。
これは「今の会社が嫌だから辞めたい」という相談ではありません。
自分の可能性をもっと広げたい。
そんな前向きな相談だったのです。
だから私は、その場で転職を勧めることはしませんでした。
「焦って決める必要はありません。」
「今はまだ、今の会社で学べることもあると思います。」
「でも、将来、本当に転職すると決めた時には、必ず力になります。」
そう伝えて、その日は別れました。
あの日は、転職を考えていなかった彼。
私は、この出会いが一度きりになるかもしれないと思っていました。
しかし、それから数年後。
一本の電話が鳴ります。
「上原さん、ご無沙汰しています。」
受話器の向こうには、あの日ファミリーレストランで向かい合って座っていた彼の声がありました。
「実は、転職のことで相談があります。」
あの日、転職を考えていなかった彼が、自ら私に連絡をくれたのです。
その瞬間、私は「いよいよ、その時が来たんだ」と思いました。
(第三話へ続く)
□ 住宅会社の求人企業様で採用を御考えの方
□ 住宅業界で転職を考え始めている方
お気軽にお問合せください。
